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大阪高等裁判所 昭和24年(を)984号 判決

被告人

上野貴美男

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人黑川新作の控訴趣意は末尾添付の控訴趣意書に記載のとおりである。

第一点について。

原審第一回公判調書には、裁判官が証拠調に入る旨を告げたところ副檢事は起訴状記載の事実第一乃至第四の各事実にてそれぞれ証拠の取り調べを請求しそれぞれ立証趣旨を述べたと記載してあるから、起訴状記載の公訴事実(簡單な窃盜又は同未遂)ごとに各別に証拠の取り調べの請求をしたものであつて、所謂刑事訴訟法第二百九十六條に規定する「証拠により証明すべき事実を明らかにしなければならない」との手続をふんだものと解するに難くない。

第二点及び第三点について。

有罪の言渡をする判決には罪となるべき事実を示さなければならないが、窃盜の犯罪事実の判示においてその被害品の見積價格を示す必要はないしまた刑事訴訟法第三百三十五條第二項は明文のごとく法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重赦免の理由となる事実に関するものであるところ、所論窃盜被害品見積金額いかんのごときは右のいづれにも関係のないものであるからこの点について所論のような主張(この主張とは被害品の見積價格を爭う主張は、刑訴第三三五條第二項の主張であるとの主張である。刑事局註)があつても、それに対して判決で判断を示す必要はない。なお原判示犯罪事実第一の窃盜被害物件は「衣類雜品合計五十点位」とあつて所論のように五十四点なる記載はない。

第四点について。

窃盜罪を認定するにあたつてその賍品の賣りさばき先を明らかにしなければ被害届があり被告人の自白があつても直ちに被告人の犯行と断定するには証拠は十分でないというがごとき論理も実驗則もないから、原審が被告人の賍品の賣りさばき先を究明しないで原判決挙示の証拠を総合して窃盜の事実を認定しても何らの違法はない。

以下省略

控訴趣意書

第一点

原判決は刑事訴訟法第二百九十六條に違反して行はれたる審理に基き爲されたるものにして破毀を免れざるものと思料す即ち檢察官は証拠調べのはじめに於て証拠に依り証明すべき事実を明にし然る後証拠調べを請求すべきものを提出すべきことは刑事訴訟法第二百九十六條の明記する所である然るに原審公判調書を見るに檢察官がこの手続を履行したる形跡は更にないのであるから結局檢察官は刑事訴訟法第二百九十六條に記定する所の証拠調べのはじめに於て爲すべき手続を爲さずして直に証拠調を請求し同法條に違反し居ることは明かなる所である而して原裁判所も亦檢察官が刑事訴訟法第二百九十六條の手続を履践し居らざるにも不拘其儘審理を進めて結審し判決したるものにして斯の如きは違法の審理に基き判決したるものにして当然破毀せらるべきものと思料す。

第二点以下省略

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